【ファームキャニング販売店紹介】FOOD & COMANY 湘南T-SITE店
ファームキャニングとスローフードの深い関係
「スローフード」という言葉、みなさんも聞いたことがあると思います。世界的に食への関心が高まる中、日本でも数年前から食に関わるお店やメディアなどで使われるようになり、一気に馴染みのある言葉になりました。
実はスローフードは、それ抜きに語ることができないくらいファームキャニングの活動のベースにもなっています。
その運動に影響を受けた代表の西村は、仲間と一緒に「スローフード三浦半島支部」を立ち上げたほど。今回のコラムでは、そんな国際的草の根運動でもあるスローフードのこと、そして日本の運営機関である「日本スローフード協会(Slow Food Nippon)」や「スローフード三浦半島支部」についてご紹介します。
Slow Food Nipponの代表理事を務める渡邉めぐみさんにも、貴重なお話をうかがいました。
土地の食を守るスローフード
「スローフード」と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか?
昔ながらの日本の食卓という人もいれば、オーガニックレストランのおしゃれなメニューという人、畑に実る野菜たちの姿を浮かべる方もいるかもしれません。
そのどれもが間違いではありません。ですがスローフードは、「食」そのものを含めたもう少し大きな意味を持っています。
Slow Food Nipponの言葉を借りれば、“スローフードとは、私たちの食とそれを取り巻くシステムをより良いものにするための世界的な草の根運動”のことです。
きっかけは、当時世界中に店舗を拡げていたファストフード出店への反対運動。
土地に根付いた食文化が失われることに危機感を覚え、各地の伝統的なマンマの味を守ろうと動き出した若者たちによって1980年代にイタリア・ブラで設立されました。
その後スローフード運動は進化を続け、現在は160カ国以上へと拡がる国際的組織に。
文化、政治、農業、環境、経済などさまざまな要素で「食」をとらえ、フードシステムに対する総合的なアプローチを行っています。
2016年3月に、スローフード国際本部から承認を受けたSlow Food Nipponが発足。
全国各地に地域の支部やコミュニティがあります。
おいしく、きれいで、ただしい食を
スローフードには、「GOOD(おいしい)CLEAN(きれい) FAIR(ただしい)」というシンプルで素敵なスローガンがあります。
そこに込められているのは、おいしく健康的で、環境に負荷を与えず、生産者が正当に評価されることを目指す、という想い。
これは、ファームキャニングが設立時から考えていることにもつながります。
ファームキャニングとスローフード協会との出会いは、今から5年ほど前の2016年。
ファームキャニングを立ち上げて間もない西村は、スローフード発祥の地イタリアで2年に1度行われているスローフードの祭典「テッラマードレ・サローネデルグスト」(以下テッラマードレ)に日本代表チームメンバーとして参加する機会を得ます。
草の根運動と聞いていたのでシリアスな印象を持っていたのですが、イメージとはまったく違ったものでした。
街中が世界各地のおいしい物と人々の笑顔であふれ、さまざまな言語で交わされる「カンパイ」の声。
「おいしいし楽しいよ、みんなもどう?」「一緒に考えようよ!」そんなハッピーでウェルカムな雰囲気で満ちていました。
眉間にシワを寄せて「ファーストフード反対!スローフードを広めよう!」などと叫ぶ人はいません。
明るく前向きなムードにすっかり心を奪われた西村は、帰国後テッラマードレに一緒に行ったメンバーらと共同で「スローフード三浦半島支部」を立ち上げます。
スローフード三浦半島支部のメンバーは、西村をテッラマードレに誘ってくれた一般社団法人そっか共同代表 小野寺愛さんや、逗子葉山常備菜研究所 お結び処、アミーゴマーケット店主 井上園子さん、城ヶ島のマグロ問屋三崎恵水産の石橋夫妻、ナチュラルワインバー OHANAYA店主 折田幸久さんなど、ふだんの活動がすでにスローフードに直結しているような面々。
メンバーのことは同志のように思っています。
月に1度の定例会議では最初にそれぞれの近況報告を行うのですが、みんなの活躍に刺激を受けながらよしまた1ヶ月がんばろうとそれぞれの持ち場に戻るような感覚。
共同で地域近隣農家さんの規格外野菜の共同購入なども行っており、続けてきたおかげでできたプール金の有効な使い道なども協議しています。
Slow Food Nippon 渡邉めぐみさん インタビュー
世界的な食の草の根運動団体 スローフードの一部で、日本国内のスローフード運動の中心となる団体が日本スローフード協会(通称 Slow Food Nippon)。
スローフード三浦半島支部をはじめ日本全国の支部の母体でもあります。
そのSlow Food Nipponで2019年4月から代表理事を務めるのが、有機農家のお嫁さんで二児の母でもある渡邉めぐみさん。
スローフードに関わることになったきっかけやSlow Food Nipponの今後の展望についてなど、お話をうかがいました。
— スローフードとの出会いはいつですか?
通っていた大学に、今の前身となるスローフード ジャパンで当時副会長を務めていた石田雅芳さんが特別講師にいらしたことがあり、初めて最初から最後まで寝ないで講義を聞きました。
石田さんの話を聞くうちに、その頃さまざまな飲食店でアルバイトをする中で抱えていたモヤモヤが晴れていく気がしたのを覚えています。
— どんなことにモヤモヤしていたのでしょうか?
高校が進学校だったこともあり、なんとなく流れで大学へ進学したのですが授業には正直興味がわかず……
料理好きの母の影響で料理にはずっと興味があったので、居酒屋からはじまり、個人経営のイタリアンや本格的なレストランなど飲食店でアルバイトをしていました。
そのうち、3Kと言われるくらい調理の現場が疲弊していることや、使っている食材がどこでどう作られているか考えることもなく淡々と料理をしているような環境に疑問を感じるようになっていたんです。
石田さんが話してくれたスローフードの考え方や活動は、当時感じていた食の問題の解決策になるように思いました。
— その後スローフードに関わるように?
講義の後、スローフードについてもっと知りたいと石田さんに伝えたところ、スローフードジャパンの活動のお手伝いをさせてもらえることになり、
それから少しずつスローフードに関わる時間が増えていきました。大学生の仲間を中心にSlow Food Youth Networkも立ち上げました。
周囲が就職活動をはじめる中で進路を考えている時にスローフードジャパンの大人たちに勧められ、イタリアの食科学大学University of Gastronomic Sciencesの修士課程へ進学しました。
食科学は、さまざまな学問の中に散りばめられている食の要素を1つに落とし込んだ学問で、University of Gastronomic Sciencesはそれを学ぶことができる世界で唯一の場所。
午前中はアミノ酸の分子式や食品ラベルの法律など難しい講義を聞いたかと思えば、午後は山へ繰り出したり、チーズのテイスティングの授業があったり、目が回るくらいいろいろな分野から食を学びます。
卒業後はバスク地方のレストランで働くことがほぼ決まっていたのですが、スローフードインターナショナルから、組織を新しくするから一緒にやって欲しいと誘われて日本に戻りました。
新しいSlow Food Nipponという組織を立ち上げ、運動の活性化や若返りを行いました。
— その後3年目で代表理事に。とてもスピーディな展開ですね。
最初に話を聞いた時は、私では分不相応だろうと思いました。
でも「若くて女性でお母さんであるあなたがやるからこそ意味がある」と言われて……
みんなを巻き込んで助けてもらいながらならできるかなと引き受けました。
2018年から2019年にかけては、妊娠、結婚、出産、そしてSlow Food Nipponの代表理事就任と、今考えてもかなり目まぐるしい年でしたね。
— Slow Food Nipponではどんな活動に力を入れていますか?
スローフードの主な活動の一つに、地方ならではの伝統食材を守り繋いでいく「味の箱船」という取り組みがあり、日本でも全国各地に74の味の箱船が登録されています。
昨年クラウドファンディングを通じて支援を募り、絵本をつくるプロジェクトをスタートしました。
第一弾として4地域4食材を題材にした4冊が完成し、各地の教育委員会へ寄贈したところです。
絵本というツールができたことで、教育機関や自治体など多くの人と一緒に行動を起こすきっかけになり、子どもたちへの読み聞かせや食育ワークショップなど活動が拡がります。
そして何より、生産者さんや地域の人たちを巻き込みながらつくる、その過程にとても意味があったように思います。
長い間その地域だけのものだった食材に、外から来た人間が注目し絵本をつくろうとしている。「うちの食材がすごいらしいぞ」と、制作が進むにつれて、生産者さんや地域、子どもたちの目が変わってくるのを感じました。
— 今後どんな活動をしていきたいですか?
味の箱船絵本は今後も継続してシリーズ化していきたいです。
また、テッラマードレ日本版のようなイベントをやっていきたいとも思っています。
規模は小さいですが、神戸市で開催している「WE FEED THE PLANET」が少しそれに近く、おいしいものを囲んで全国の生産者・料理人・食の専門家と一緒に食の未来を考えるイベントです。
今年2月の開催で3回目だったのですが、終わった後は「また来年ね!」と言える関係性が既にできている。
ここで生まれた出会いや繋がりに勇気をもらっているという声をたくさん聞きます。
作る人も食べる人も、すべての人がフラットに関われるイベントは今後も企画していきたいです。
— 代表理事としてSlow Food Nipponをどういった組織にしていきたいですか?
止まらず新陳代謝をし続ける組織でいたいと思っています。
私も若いと言われますがもっとより若い世代へ目を向けたいですし、次へバトンを渡すということも考えています。
いまの大学生を見ていると、進路を考える際に食を中心に捉えたいという子がとても増えていると感じます。
災害やコロナウイルスの流行などで暮らしが否応なく変化し、生きている間に何か確実に起こるだろうと実感する場面が増えたことも一因かもしれません。
東京近郊の若者が中心となって活動しているSlow Food Youth東京では、音楽に合わせて破棄される食材をチョップしてスープを作り、道ゆく人たち配る「ディスコスープ」というイベントを定期的に開催しています。
暗い問題をそのまま伝えるのではなく楽しく食べちゃおうよとイベント化してしまうのが、若者らしいですよね。
そういった若い世代との接点をもっと増やしつつ、たくさんの人たちをいろいろな形で巻き込み、日本各地、世界各地と繋がりながら常にアップデートしていきたいです。
スローフードの歴史は長いですが、Slow Food Nipponはまだ6年と組織としては若い。
できることから一歩一歩、肩肘張らずにそれぞれができることをフィードしていけたらいいのかなと思っています。
今年はテッラマードレが開催される年。
2016年以来となるトリノ市内の「ドーラ公園」を会場に、野外で実施されます。
スローフード日本やテッラマードレに関するお知らせはSlow Food Nipponの各種ソーシャルメディアでご確認ください。
農業は面白い!を発信する「ブロ雅農園」を訪ねて
ファームキャニングのびん詰めには、規格外などの理由で出荷できない野菜が使われています。ほんのちょっと形が不揃いというだけで、どの野菜もとても元気で、とってもおいしい。それもそのはず!野菜愛にあふれた農家さんが、なるべく自然に近い方法で、手をかけ心を込めて作った野菜たちなのですから。
今回、代表の西村とライターの佐藤が訪ねたのはファームキャニング設立当初からお付き合いのある横須賀市の「ブロ雅農園」さん。野菜の規格のことや地域で広がりを見せる農福連携のことまで、園主 雅智さんにいろいろ聞いてみました。
ブロ雅農園の野菜作り
三浦半島の相模湾を望むソレイユの丘近くで、ご夫婦で営まれるブロ雅農園。この近くにも18ヶ所畑を所有し、年間100種類以上という少量多品目で栽培しています。
お祖父さまの代から「農業は土作りがすべて」と教えられて育った雅智さん。できる限り有機肥料を選び、お茶粕やコーヒー粕などを発酵させた堆肥を使用。農薬の使用は極力控え、多くの野菜を「栽培中農薬不使用」で育てています。環境に負荷をかけない「環境保全型農業」を実践しているとして、神奈川県のエコファーマーにも認定されました。
農業高校の教員として11年間働いた後、家業を継いで農家となった雅智さん。「農業は面白い!」をテーマに、教えるという得意分野を活かしたさまざまな活動もされています。
農業高校の教員から農家へ
— すぐに農家を継ぐのではなく、なぜ教員になったのですか?
最初は農家を継ぐつもりで農業高校に進みました。父が畑にいるのが楽しくて楽しくてしょうがないという人だったので、そんなに言うなら農業って楽しいんだろうなと。入学してみると、生徒は実家が農家という子がほとんど。口々に「農家なんて継ぎたくない」と言っていて、「農家をやりたい」なんて言っているのは私くらいでした。
その高校で出会った先生の影響で、教えるのも面白そうだなと、先生になればイヤイヤ通ってくる子たちに「農業って楽しいんだよ」と教えることもできるのではと思い、免許だけでも取っておこうと大学へ進みました。農業高校の教員は空きがなかなか出ないのですが、大学卒業の年にたまたま1人空きが出て、そのまま11年間続けました。
— ちょっと変わった「ブロ雅農園」、由来はなんですか?
農園経営をシミュレーションする授業があり、農園名も考えるんです。先生だったらどんな名前にするのかと聞かれて思いついたのが、名前の雅を使った「ファーム雅(みやび)」か、あだ名のブロ雅を使った「ブロ雅農園」。「ブロ」はブロッコリーのブロで、当時実家がブロッコリー農家のようにたくさん作っていたので友人からブロ雅と呼ばれるようになりました。
生徒たちには大笑いされたのですが、もし先生を辞めて農業をやるときには「ブロ雅農園」にすると約束したんです。いざ農業を継ごうとなったとき父の鈴木浩之農園を一緒にやるという選択肢もあったのですが、違うこともやりたいという気持ちもあり「ブロ雅農園」としてスタートしました。
廃棄するくらいなら食べてもらいたい
— SNSに投稿されたユニークな形のニンジンが話題になりましたね。
予想以上の反応にこちらもびっくりしました。うちは農薬を極力控えていることもあり、虫の影響も受けやすく形も不揃いになりがち。偶然面白い形になっていることも多いんです。(30万件のいいね、8万件のリツイートがあったという話題のニンジンはコチラ)
規格外のようなちょっと不恰好な野菜に関しては農家さんによって考え方もさまざま。私みたいに「破棄してしまうより、買ってくれる人がいるなら多少形が悪くても売りたい」というスタンスの方もいれば、壺職人のように「きれいな野菜を作ってこそプロの農家、B品を出すなんで恥」という方もいます。どちらの考えもありだし、いろいろな売り方があっていいんじゃないかなと思っています。
— 規格外の野菜を売る難しさはありますか?
やはり形のいいものから売れていくというのは事実。袋ありのものと袋なしのものでは、袋に入っているものから売れるんですよね。でもマーケットに出店した時など栽培方法などを説明するとちょっと形が悪くても買ってもらえたり。野菜を作るだけでなく、その背景を積極的に発信していくということも大切だなと感じます。
— そもそも「規格」とは何ですか?
主に農協を通した流通の合理化のために定められたものです。各地域の農協に買い取られた野菜はいったん市場に運ばれ、全国の小売店へ出荷されます。長旅の途中で傷がついたりしないようダンボールにきちんと収まり、また店頭に並べやすいようにと設けられた、大きさや形、色などの基準が「規格」。大量の野菜を一定の品質を保ちながら全国へ届けるためには、必要なものだとは思います。
— 規格に合わせるだけで大変そうですが、それでも多くの農家さんが農協を通すのはなぜですか?
作った分買い取ってもらえ、売り先も決めてもらえるのは農協を通す利点です。直売所などはスペースが限られていますし、袋詰めや値段付けなども自分でやらなければならず、売れなかったら自己責任。それでも自分で作った野菜には自分で値段を付けたいという農家さんもいますし、多少安くても売るのは農協に任せて野菜を作ることに専念したいという農家さんもいます。
また「産地」も多いに関係しています。三浦半島はダイコンやキャベツの一大産地として知られていて、三浦産、横須賀産のキャベツやダイコンはブランド。農協が付ける市場価格も高いため、三浦半島ではダイコンやキャベツをメインに栽培する多量少品目の農家さんが多いです。
それぞれのやり方で、どう作ってどう売るか
— ブロ雅農園では農協を通さず少量多品目で栽培しているのはなぜですか?
いちばんは父の影響ですね。農薬に弱い体質だったこともあり極力農薬に頼らない農業を行い、「横須賀長井有機農法研究会」の会長も務めています。有機農法が今よりずっとめずらしい時代に、話して伝えてということをしていたらファンがどんどんついて、父の野菜を支える120人くらいの団体までありました。そんな父の姿を見ていたので、こんな売り方もあるんだ、それぞれのやり方でいいんだと思っていました。
それにうちのように農薬を極力使わずに栽培している野菜を農協さんに出そうとしたら、規格外でほぼ破棄になると思います。病気になっていなくても予防の目的で農薬を使うのが一般的。そうじゃないと規格に合うきれいな野菜はできないんです。それくらい見た目重視の世界。
また三浦半島はダイコンやキャベツは作られ過ぎていて、すでに飽和状態なんです。それなら青首ダイコンだけでなく、カラフルなダイコンを作ってみたり違うことをやった方がいい。いろいろな種類を作っている方が、畑もにぎやかになって楽しいですしね。
— ブロ雅農園の野菜はどこで買えるのでしょうか?
ソレイユの丘とすかなごっそという直売所に置かせてもらっています。またいくつかの産直E Cサイトでも取り扱いがあります。大手スーパーさんとも取引があり、今年の夏は朝10時くらいに出荷してお昼くらいには生鮮売り場のブロ雅農園コーナーに並ぶという売り方をやってみました。少量多品目を活かしてカラフルなちょっと変わった野菜を中心に取り揃え、おかげさまで好評でした。
通常スーパーには規格に準じた野菜が並びますが、今回は直接の取引だったこともあり多少形が揃っていなくてもO Kと言ってもらえました。ただ途中から表示を変更することになり、それは残念でしたね。
— 農薬の表示についてはとても複雑だと聞きます。
最初は「栽培中農薬不使用」の表示を入れていたのですが、お客さまにいろいろ聞かれたようで、混乱を招くので表記は取ってくださいと。国にも認められている表記なのですが、規定が曖昧なこともあり今回のように入れられないことも多いです。
農薬使用回数が0であっても国のガイドラインで「無農薬」「減農薬」という言葉は使用できないことになっていますし、J A S認定を取得しない限り「オーガニック」や「有機農業」という言葉も使用できません。直売所によってもO KだったりN Gだったりマチマチ。伝えたいことを伝えられない、もどかしい想いをしている農家さんはとても多いです。
教員経験を活かした農業体験と農福連携
— 農業体験も積極的に受け入れていますよね?
実は今日も午前中に開催していました。コロナウイルス感染症の流行で屋外のアクティビティの需要が高まり、去年は1年間で4000人受け入れました。
教員時代から農業体験をしたいという声はよく聞いていたのですが、受け入れている農家さんはほぼいない状態。教えることは好きですし、都市部近郊という立地条件もいいので、やってみようかなと。黙々と野菜を作るより人と関わりながら「楽しい」「おいしい」と言ってもらえることに喜びを感じるタイプなので、向いているのだと思います。
仕掛けを考えるのも面白くて、例えばこれば「ニンジンガチャ」と呼んでいるのですが、ニンジン畑は色々なニンジンが植えてあり抜くまで何色が出るかはお楽しみ。小さい子なんてどんどん抜いちゃうので、すぐなくなっちゃうんですけど(笑)
— 農福連携はどんなきっかけではじめたのですか?
家族だけではちょっと手が回らないなと感じていて。そんな時タイミングよく農福連携をやってみませんか?と話があり、説明会に参加しました。すると広い会場に来たのは私だけ。きっと他の農家さんは、障がいのある方に農作業ができるというイメージがわかなかったのでしょう。
でも私はそうは思わなくて。というのも農業高校にも障がいを持っている生徒がいて、とにかく仕事がていねいで畑もきれい。その様子を見ていたので、不安もそれほどありませんでした。実際にお願いしてみると、やっぱりできるんですよね。最初は反対していた両親も驚いていました。
うちでの働きぶりを見て、やりたいという農家さんも増えてきました。障がいにも程度がありどの作業ならできるのかを見極めて教えることが大事。農家さんは教えることに慣れていないので、最初はなかなかうまくいかないんです。そこで農家さん向けのチラシを作ったり、講演に行ったり、いつの間にか農福連携の相談役みたいになっています。今は逆に人気になってしまって、なかなか来てもらえないくらいなんです。もともと労働力が足りていない地域なので、相性も良かったのだと思います。
— 一見大変そうなことも雅智さん自身が楽しんでいるのが伝わってきます。
農業の技術に関しては卒業後すぐに農家を継いだ教え子たちの方が先輩ですが、教えることは他の農家さんに負けない自分の得意分野。農業体験や農福連携も、教員の経験があったからこそ楽しみながらできています。
農家の後継者たちがイヤイヤ農業高校へ通っている、その現状を変えたいと教員をしていましたが、今もその思いはありますね。若い人たちには「農業って楽しい」「農家ってかっこいい」と思ってもらいたいですし、そのためには我々がまず楽しまないと。
ちょっと不恰好な野菜も多いですが、農家としては「きれいだね」より「おいしいね」と言ってもらえる方がうれしい。これからもブロ雅農園らしい野菜作りを続けていきたいです。
農園内には美術部だったという雅智さん作のイラストが散りばめられ、とても開かれた雰囲気。農業と聞くと大変な面ばかりが注目されがちですが、「面白いから」「楽しいから」とさまざまなことにチャレンジしている雅智さんのお話しを聞いていると、近郊農業だからこその新しい可能性をたくさん感じました。
ブロ雅農園&鈴木浩之農園の詳しい説明はコチラ
仲間と共に自然の循環を学びあう「畑クラブ」
「野菜を育ててみたいけど1人で畑を借りて始めるのはちょっとハードルが高くて…… 」ファームキャニングの活動をしているとそんな声をたくさん聞きます。シェア畑や家庭菜園に興味があるという方も増えていますよね。
そんな野菜好きの仲間たちと一緒に畑を作りたい。それもファームキャニングの拠点である逗子で。
そうひっそりと想い続けていた願いが今年の春ついに叶い、逗子の真ん中で『畑クラブ』という活動がはじまっています。
スタートからもうすぐ半年。第二回目のコラムは、ファームキャニングの畑への想い、そして仲間と共に楽しくおいしく学びあう『畑クラブ』についてたっぷりとご紹介します。
ファームキャニングのはじまりは畑でした
第一回目のコラムでもご紹介しましたが、ファームキャニングの原点は畑。代表の西村が葉山の農園をお手伝いしたことがきっかけでもったいない野菜のびん詰めをスタートし、ほぼ同じタイミングで畑仕事のスクールもはじめました。
気軽にはじめた農園のお手伝いですが、自分たちの手で育てた野菜を「おいしいおいしい」といただいているうちに、ふだん購入している野菜のことも気になるように…… 野菜をお世話してくれた農家さんがいて、虫や微生物たちが土を肥やし、雨や太陽が降り注ぐ。そんな光景が浮かび、野菜を育てることも食べることも自然の一部なのだと気がつくのに時間はかかりませんでした。自然からの贈りものだと思うと、野菜たちがいっそう愛おしく、食事のたびにお腹がポッと温かくなるようななんとも幸せな気持ちになったものです。
しかし残念なことに現在のフードシステムでは、今日食べた野菜がどこでどう育てられたのか知る機会がなかなかありません。私たちが畑に教えてもらったように、自然(いのち)の循環をもっとみんなと分かち合いたい。農作業の楽しさ、農園の美しさ、野菜のおいしさを共有したい。そんな想いが募り、お手伝いしていた農園のスタッフに栽培のコーチをお願いし畑のスクールをスタートしました。
葉山の農園から逗子の畑へ
そんなふうに葉山ではじまったスクールは5年続き、卒業生は約80人。それはそれは楽しく実りある時間を過ごしました。しかしその農園が移転することになってしまい…… 場所も形態も少し変わる形でリスタートしたのが、逗子の畑クラブです。
自然の循環を考える中で大切にしたいのが、自分たちが食べるものを暮らしの中で作ること。ですがファームキャニングの拠点でもある逗子市は農地がほぼゼロ。だからこそ、どうしてもこのまちで仲間と一緒に野菜を育てて食を囲む場所を作りたいと思いました。そんなとき突如素敵なご縁に恵まれ、逗子駅から徒歩約5分のところにあるキッチン付き貸しスペースをお借りできることに! 造園会社逗子ガーデンさんのお力も借りて、晴れて今年の5月に第1期がはじまりました。
仲間と一緒に野菜を作って食べて学ぶ半年間
私たちが叶えたかったのは、畑と食卓をつなげる場。毎月1回のメンバー活動日には、畑仕事だけでなく畑で収穫した野菜や地元農家さんが届けてくれた野菜を使ったびん詰めと野菜ランチをみんなで楽しみます。そして、畑や野菜を通して食の背景について学びあいます。
この学びあうというのも、畑クラブが大切にしていること。スクールではなくクラブと名付けたのもそれが理由です。先生と呼ばれる存在もいません。「教えてもらわずに野菜が育てられるの?」と不安に思う方もいるかもしれません。でも大丈夫!ファームキャニングのスタッフが葉山の農園で学んだことをシェアさせてもらいますし、土とお天気と野菜たちをよく観察していると、どうするとよいか不思議とわかるもの。(ということを私たちもこの半年の活動を通して学びました!)みんなで調べて考えて楽しく畑を作っていきます。
自然の力を生かした無農薬無化学肥料の畑作り
畑クラブの流れを詳しくご紹介しますね。
午前10時(真夏はサマータイムで午前9時)に集合したら、畑全体の観察をしてからみんなで畑作業。目指しているのは、土、太陽、雨、虫など、そこにある自然の恵みを生かし、循環が生まれる畑作り。農薬や化学肥料は使わず、パーマカルチャーの考え方・手法も取り入れています。
厄介もの扱いされがちな雑草だって大事な要素の一つ。雑草マルチといって野菜の株元に敷くことで、土を乾燥から守り新たな雑草が茂るのを防ぎます。景観を彩るお花も、病気や害虫を防いでくれたり野菜にとっては頼もしい隣人。作業内容は畑の状態や季節によって変わりますが、半年の期間を通して種まきや苗植えをして収穫するまでを体験できます。
この場所での畑作りは、ファームキャニングにとっても初めてのこと。どんな野菜ができるのか、ちゃんと育ってくれるのか、収穫するまでわかりません。
想像以上に元気に実った野菜もあれば、途中で虫にやられてしまう野菜もあったり。
思い通りにいかないことも含めてすべてが学びであり楽しみ、そんなおおらかな気持ちで向き合います。それに自分たちで食べる分を自分たちで作るのであれば、形が不揃いでも少しくらい虫に食べられていても気にならないもの。
個性豊かな野菜たちを見て、「むしろ形を揃える方が奇跡」「こんなに虫が飛んでいるのだから食べられる方が自然」メンバーからはそんな声も聞こえてきました。
月に1度の活動日以外にも、メンバーはいつでも自由に畑に入り作業や収穫ができます。出勤途中に寄り道して様子を見たり、雨が降らない時期は分担して水やりをしたり、その日の夕飯に使う野菜を調達したり。ほんの少し土に触れる時間を持つだけで心が豊かになるもの。駅近でアクセスが良いこともあり、気軽に立ち寄れる場所になっています。
“畑の資材が木や竹、紐も麻紐やシュロなど、自然素材中心なので、畑にいるととても心地がよかったです。気分転換によく畑に行きました。
厄介ものにされがちな草も活かす畑づくりなので、草とたたかわなくて済み気持ちもラクでした。(第1期メンバー Nさん)“
ファームキャニング直伝、旬を閉じ込めたびん詰め
畑作業の後は、隣の建物にあるキッチンに移動。築80年の建物を改装していて、外観も室内もとっても素敵なんです。ギャラリーや個展などにも使われるというのも納得。大きな窓からはお庭と電車(線路も近いのです)が眺められ、畑作業の心地いい疲れを癒してくれます。
規格外のもったいない野菜を使ったびん詰めは、私たちが発足当時から続けている活動の一つ。ファームキャニングと聞くと『びん詰め』を思い浮かべる方も多いかもしれませんね。そんなファームキャニングのびん詰めレシピを元に、ある時は農家さんから届いた旬の野菜を使って、またある時は隣の畑で穫れたハーブを使って、みんなでせっせとびん詰めを作ります。細かい作業もみんなでやるとあっという間。びん詰めってこんなに簡単なんだと思ってもらえます。
野菜はそれぞれ形が違うもの。不揃いなだけで破棄してしまうのはもったいないし、どんな野菜もおいしく食べることで生産者さんの負担が減り、持続可能な農業が当たり前になってもらいたい。ファームキャニングのびん詰めにはそんな願いが込められています。実はご家庭にも、使いきれない野菜や家庭菜園で熟れ過ぎてしまった野菜など、もったいない野菜ってありますよね。そんなときはここで習ったレシピをアレンジして、ぜひびん詰めに!冷蔵庫に常備しておけば、まぜるだけ、つけるだけ、のせるだけで、あっという間においしい一品が完成。時間がない時の救世主にもなってくれます。
お待ちかねの野菜たっぷりランチ
びん詰め作業をしているとキッチンから漂うおいしそうな香り。畑作業ですでにペコペコのメンバーのお腹を容赦なく刺激します。これをいちばんの楽しみに参加しているメンバーもいるとかいないとか…… お待ちかねのランチタイムです。
実はケータリングも請け負っているファームキャニング。野菜料理のプロでもあるスタッフが、旬の野菜をたっぷり使ったランチプレートをご用意します。スパイスやびん詰めを使って、一皿でいろいろな味を楽しんでもらえるように。野菜そのもののおいしさを味わってもらいたいから、あまり手を加え過ぎないことも大切にしています。メンバーさんから、「それだけでこんなにおいしくなるの!?」と言ってもらえたときはとっても嬉しいです。
気持ち良いお天気の日はウッドデッキに出て、コロナウイルスの感染防止のため黙食でいただきます。自然と食事に集中するので、野菜たちの繊細な風味までじんわり感じられるといういい点も。それにしても、体を動かした後のごはんてなんておいしいんでしょう。
“ランチも楽しみの一つ。野菜メインなのに満足感たっぷりで、影響されて家でもいろいろな野菜料理を試すように。野菜オンリーという日も増えました!(第1期メンバー Hさん)”
自然の循環って?みんなで学びあう食の背景
お腹を満たした後は少しだけ学びの時間。食の背景について毎回テーマを設け、知っていること考えていること調べたことを語り合いながら学びをシェアします。第1期のそれぞれの月ごとのテーマは、「土」「多様性」「種」「循環」「月のサイクル」「未来につながる食卓」。どれも私たちの食に関係する大切な事柄です。
畑をやってみたい!野菜が好き!という共通点はあるものの、メンバーは年齢も職業もさまざま。逗子市近辺にお住まいの方もいれば都内から通ってくる方もいます。ふだんあまり交流の機会のない方たちと同じテーマについて話すだけでも、とても貴重な時間。一緒に畑仕事をして一緒に食事をするという家族のような時間を過ごすからか、いつもリラックスした雰囲気で場が進みます。1人だとちょっと難しく考えてしまうようなテーマもみんなで輪になって話すと、身近なことにつながったり意外な解決策が見えてきたり。お話に耳を傾けながら、私たちも新しい発見や気づきをもらっています。
こんな感じでぎゅっと濃い時間を過ごしたら14時ごろ解散です。畑近くのソフトクリーム屋さんに寄り道して帰るメンバーがいたり、他のメンバーに教えてもらった逗子の気になるお店に行ってみたり、クラブの放課後も楽しんでいる様子。
ここで体験したエッセンスがみなさんの暮らしや地域で広がり、小さな幸せが次々と生まれることを願っています。
“畑に興味を持ったきっかけやライフスタイルも様々なみなさんと一緒に学びを共有し、意見を交わしながら作業を進めるのが毎回刺激的で、毎月楽しみでした!(第1期メンバー Sさん)”
“メンバー同士のそれぞれの生活や気持ちの変化をシェアする機会もあり、毎回色々な気づきがあります。土に触れておいしい野菜を食べて、毎月畑に行ったあとは、体も心もリセットされる感覚です! (第1期メンバー Fさん)”
第2期メンバー募集中
半年にわたる第1期は、もうすぐ終了。現在ファームキャニングでは、11月スタートの畑クラブ第2期メンバーを募集しています。畑に集う仲間と一緒に、おいしく楽しく自然(いのち)の循環に触れてみませんか?
【日程】全6回 火曜日コース 土曜日コース
【時間】各コースともに 10:00〜14:00
【募集人数】各コース12名(予定)
お申し込み順となります。定員に達し次第募集終了となります。
畑クラブの詳細や申込については下記のボタンをクリックしてご確認ください
<お問い合わせ>
info@farmcanning.com
ファームキャニング「畑のびん詰め」ができるまで
こんにちは、ファームキャニングの西村です。
今日からスタートするこちらのコラムでは、西村とファームキャニングのスタッフが、私たちファームキャニングのこと、野菜や食の背景など、毎日の「おいしい」につながるお話を綴っていけたらと思っています。
ファームキャニングは規格外などの理由で市場に出回らない野菜を積極的に農家さんから買い取り、ソースなどの瓶詰めを製造販売しています。
初めは自分一人で数本作るところから始まり、今では神奈川県や都心部のお店などにお取り扱いいただくほどになりました。
なぜびん詰めを作ることになったのか、そしてなぜ規格外の野菜を取り扱うのか。
一回目のコラムでは自己紹介も兼ねて、ファームキャニングの始まりをお伝えします。
キャニング=びん詰めという知恵
まず初めに、canning(キャニング)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。英語で、びん詰め・缶詰めという意味で容器内を真空にして殺菌し、保存することを指します。
以前アメリカに旅行した際に購入した「HOME CANNING」という本を帰国後に眺めていたところ、ジャムやピクルスだけでなく、たけのこや山菜の水煮など日本でも昔から瓶詰めはあったことに気づきました。
そう、多くの国や地域でもおばあちゃんの知恵のように作られてきた瓶詰めがあるのです。しかも冷蔵庫などのエネルギーを使わなくても常温保存できる。なんという知恵でしょう!
この知恵を現代で見直すことは、利便性を追求することとは真逆ではあるものの、大切な何かを得られるように思えました。
そして、野菜だけでなく畑での時間や思いも詰め込む、そんなコンセプトのびん詰めを作ろうと考えてFARM CANNINGという名前を思いついたのでした。
きっかけは、三浦半島・葉山への移住
日常的にびん詰めをしていたわけではなかった私が、試行錯誤してオリジナルのびん詰めを考えるようになったのには、人生の転機となる大きな出会いがあったからでした。
今から7年前の2014年、次男の出産を機に三浦半島に移住しました。
それまで私は都内でオーガニックカフェの運営に奔走していました。保育園に入れられなかった長男は、初めの頃は保育ママでお預かりしてもらい、お迎え後は仕事場に車で連れて戻り、さらに会社帰りの夫に息子をバトンタッチ、という綱渡り状態をやりくり。
仕事はやりがいもありましたし充実した日々でした。しかし2人目を妊娠し、さらにまた男の子だとわかった時、その綱渡りはもうできないという現実に直面。息子たちや家族との時間も大切にするにはどうすれば良いかと悩み続け、思い切って仕事に区切りをつけて2014年に神奈川県三浦郡葉山町に移住することにしたのです。
理想の農園との出会い
農家さんのお野菜やフェアトレードの食材を使ったりする仕事柄、自分のライフスタイルも人のつながりを大切にするものや環境を配慮したものをできるだけ選びたいと思うようになっていました。
引越したらさぞ地元の食材がたくさんあるのだろうなと、わくわくしていたのですが、住んでみるとなかなか地場野菜に出会うことがありません。
葉山では昔あった田畑は減り続け、ほとんど農業をされている方がいないということを知り、とてもショックを受けました。
それでも諦めずに地元で農業をされている人はいないかと探していると、素晴らしい場所に出会ったのです。
それは葉山から横須賀にかけて広がる広大な土地で無農薬・無化学肥料栽培でチャレンジする農園でした。
初めて連れて行ってもらった時のことは忘れもしません。
山に囲まれたその農園は、ただただ広い、そして、ぐるりと360度自然に囲まれた非日常的な場所でした。
生態系を崩さないようにと配慮しながら、少しずつ荒野を切り開き作物を作っていたその農園は一般的な畑のイメージとは程遠く、どちらかといえば「広大な土地」。野生のキジがスタスタと横切り、運が良ければうさぎに出会うことも。
そこで食べさせてもらったルッコラの力強い味に感激し、自生するヨモギを興奮して摘み取り、こういう場所に出会いたかった!と幸せを噛み締めたのでした。
農業に触れる経験
ここに通いたい!そう思うと同時に農園のお手伝いに誘われ、野菜と引き換えに収穫や出荷のお仕事をすることに。
まだ0歳児の次男をおんぶしながら、畑のお世話をする方達に野菜のことを教えてもらい、
無農薬で栽培することの大変さやその必要性を実感しました。
そして何より、種から芽を出し成長する野菜たちからは、いのちの美しさを教えてもらったのでした。
植物の世界はミクロの世界。その小さな宇宙にも、自然の摂理で循環するサイクルがあり、どの生き物も植物も、自然の一部としてお互いの命を支え合っている大きなシステムなのだと見えてくると、自然の神秘に胸を打たれました。
畑仕事とびん詰め作りのスクール
活き活きとした野菜を自分で採って食べる幸福感。季節ごとに楽しみな旬の味。
農園を手伝ううちに、そうしたことを多くの人に紹介したいなあと思うようになりました。
同時に、無農薬・無化学肥料で栽培することの難しい面や、都市近郊農業の色々な課題も見えてきます。
手伝いを1年ほどした頃に、もっとこの場所の素晴らしさを伝えることで農園にも還元したいと思い、FARM CANNINGを立ち上げることにしました。
どうやったら食の背景や生産者の想いを伝えられるだろうかと考え、ただ収穫体験だけをするような消費の場ではなく、来た人が何かを生み出すことができたらいいねと話し合い、年間を通した畑仕事とびん詰めのスクール事業を始めてみることに。
冒頭でお伝えした「びん詰め」を媒介に、畑での時間や体験を持ち帰ってもらおうと考えました。
農園主が畑の先生、私が旬の野菜を使ったびん詰めめ作りを担当。
春夏秋冬、多少の雨の日でも月に1度集まるコミュニティは職業や年齢の枠を超えたつながりを生みました。
持続可能な農業を応援したい
農園でのスクール事業を通して生産者のことを知ってもらうと時に、なんとか解決したいもう一つの課題が私にはありました。
それは、収穫と発送をしていた時に私自身が直面した、大きさや形などが不揃いの野菜たちのゆくえ。凹の形や大きさのばらつきや色むらなどの差異。特に無農薬で栽培するため、虫に食われてしまうなどの理由で出荷できないものが出てくるのです。
種から蒔いて、何ヶ月もお世話をしたのに、見た目が理由で売り物にならないということに私はなんともやるせなさを感じていました。ただでさえ始めて間もない小規模農園。販売できる野菜がないということは収入が生み出せないということを意味します。
それどころか「売れなかったから売り上げ0円」ではなく、それまでかけた時間やコストがマイナスになってのしかかってくる。
環境のことを考え、食べる人のことを想い、手間をかけながら人のいのちを支える仕事をしているに、こんなに大変な思いを一方的に背負わなければならないのは理不尽すぎる。もっと正当な評価を受けるべき立場の人たちだと伝えたい。
そんな風にして、持続可能な取り組みをする農業を応援したいと強く思い始めたのでした。
規格外野菜=もったいない野菜
こうして野菜の流通にも「規格」があり形や大きさ、品質に一定の基準が設けられていること、規格に当てはまらない野菜は「規格外」と呼ばれることを知りました。
例えば規格があるおかげで全国どこにでも届けるためには同じ大きさや形の方が効率的に運べますし、価格も一定に揃えることができます。今や各地の野菜を安定した価格で店頭で購入できるのは、そうした規格の恩恵でもあると言えるでしょう。
規格の基準には傷の有無もあります。もちろん野菜に傷がありそこから傷むようなことがあっては衛生的によくありませんが、品質に問題のないかすり傷程度のものなども市場に出せません。
そうして調べていくと、野菜の生産のうち約1/3は規格外とされているとのこと。
形や色、大きさといった見た目の問題で商品からはじかれてしまうのはもったいない!
そんな野菜たちをどうにかおいしく広げる方法はないだろうかと考えるようになっていました。
手探りで始めたびん詰め作り
皮を剥いたり、刻んでしまえば見た目の問題は気にならない。そう思って、不揃いの野菜たちを調理してみることにしました。
まずはピクルス、ジャム、ドレッシング。ペーストにしてポタージュスープにしてみたり。そしてその調理したものをびんに入れ、常温保存するために脱気処理をしてみる。脱気とはびん内の空気を抜いて真空にすることで、菌を繁殖させないようにする手法です。家庭で簡単にできる方法としては、内容物を入れたびんを鍋で煮沸して、蓋を少し緩めて膨張した空気を抜きます。そのタイミングや温度管理など、子供達を寝かしつけた後の自宅のキッチンで夜な夜な試作を続けていました。
せっかくなら、ジャムやピクルスといったすでにたくさん商品のあるジャンルではなく、ご飯を作るときに役立つものを作りたいと考え、いろいろなものを試しました。
手探りで始めたために、失敗もたくさん。殺菌ができていないとびん内発酵してひどい匂いが充満するなんていうことも。家族からのクレームを尻目に、あれこれと研究しました。
楽ちんごはんを作る”万能ソース”
失敗、実験を繰り返しながら少しずつ安定した商品作りができるように。地元の個人のお店やマルシェなどの手売りからはじめました。これまで本当にいろいろなびん詰めを作ってみたものです。何度も作るうちに、販売数も増え、一緒に作ってくれる仲間もできました。
そうして行き着いたのが野菜のバーニャカウダソースや季節野菜のジェノベーゼソース、香味オイルなどの万能ソース。
かけるだけ、つけるだけ、混ぜるだけで簡単に一品ができるような便利さを備えたオリジナルソースです。
一般的にはバーニャカウダソースというとアンチョビを使いますが、私たちは農家さんのお米でできた糀で塩麹を作り、それを使っています。
にんにくとオリーブオイルの風味もしっかりあるので植物性なのにコクのある仕上がりに。
季節の人参やビーツ、トマトなどを合わせた野菜のバーニャカウダソース「ベジバーニャ」は今ではファームキャニングの看板商品となりました。
サラダにかけるだけ。肉や魚につけるだけ。ご飯やパスタに混ぜるだけ。
楽ちんに作れておいしく食べることが、巡り巡って生産者の方とつながる、そんなびん詰めを目指しています。
「おいしい」の背景につながる
子育てをゆっくりしようと思って移住した先の思いがけない出会いが、今の私に導いてくれました。これだから人生は面白い!
びん詰め以外も、もったいない野菜をもっと使うために「もったいないケータリング」を始めたり、生産者の方々への工品の講習を請け負い、イベントを開催したり...。ファームキャニングとしていろいろな取り組みをさせてもらっていますが、何よりも私が一番楽しませてもらっているかもしれません。
いろいろな農家さんに出会い、その考え方や想いに触れるたびに、なんて素晴らしいのだろうと心を動かされ、新たな世界が開かれていくようです。
おいしい!楽しい!という食事は人を幸せにしてくれます。
そしてその幸せにしてくれる食べ物に込められた想いや背景と繋がった時、きっとおいしいいう以上に豊かな気持ちを運んでくれることでしょう。
どうぞ皆さんも、そのひとくちに選ぶものは、どこから来ているのだろう?どんな人が作ったのだろう?と思いを馳せてみてください。そして直接つながりを感じるおいしさを、一つでも多く探してみてくださいね。