農業は面白い!を発信する「ブロ雅農園」を訪ねて

ファームキャニングのびん詰めには、規格外などの理由で出荷できない野菜が使われています。ほんのちょっと形が不揃いというだけで、どの野菜もとても元気で、とってもおいしい。それもそのはず!野菜愛にあふれた農家さんが、なるべく自然に近い方法で、手をかけ心を込めて作った野菜たちなのですから。

今回、代表の西村とライターの佐藤が訪ねたのはファームキャニング設立当初からお付き合いのある横須賀市の「ブロ雅農園」さん。野菜の規格のことや地域で広がりを見せる農福連携のことまで、園主 雅智さんにいろいろ聞いてみました。


ブロ雅農園の野菜作り

三浦半島の相模湾を望むソレイユの丘近くで、ご夫婦で営まれるブロ雅農園。この近くにも18ヶ所畑を所有し、年間100種類以上という少量多品目で栽培しています。

お祖父さまの代から「農業は土作りがすべて」と教えられて育った雅智さん。できる限り有機肥料を選び、お茶粕やコーヒー粕などを発酵させた堆肥を使用。農薬の使用は極力控え、多くの野菜を「栽培中農薬不使用」で育てています。環境に負荷をかけない「環境保全型農業」を実践しているとして、神奈川県のエコファーマーにも認定されました。

農業高校の教員として11年間働いた後、家業を継いで農家となった雅智さん。「農業は面白い!」をテーマに、教えるという得意分野を活かしたさまざまな活動もされています。



農業高校の教員から農家へ

— すぐに農家を継ぐのではなく、なぜ教員になったのですか?

 

最初は農家を継ぐつもりで農業高校に進みました。父が畑にいるのが楽しくて楽しくてしょうがないという人だったので、そんなに言うなら農業って楽しいんだろうなと。入学してみると、生徒は実家が農家という子がほとんど。口々に「農家なんて継ぎたくない」と言っていて、「農家をやりたい」なんて言っているのは私くらいでした。

その高校で出会った先生の影響で、教えるのも面白そうだなと、先生になればイヤイヤ通ってくる子たちに「農業って楽しいんだよ」と教えることもできるのではと思い、免許だけでも取っておこうと大学へ進みました。農業高校の教員は空きがなかなか出ないのですが、大学卒業の年にたまたま1人空きが出て、そのまま11年間続けました。

 

— ちょっと変わった「ブロ雅農園」、由来はなんですか?

 

農園経営をシミュレーションする授業があり、農園名も考えるんです。先生だったらどんな名前にするのかと聞かれて思いついたのが、名前の雅を使った「ファーム雅(みやび)」か、あだ名のブロ雅を使った「ブロ雅農園」。「ブロ」はブロッコリーのブロで、当時実家がブロッコリー農家のようにたくさん作っていたので友人からブロ雅と呼ばれるようになりました。

生徒たちには大笑いされたのですが、もし先生を辞めて農業をやるときには「ブロ雅農園」にすると約束したんです。いざ農業を継ごうとなったとき父の鈴木浩之農園を一緒にやるという選択肢もあったのですが、違うこともやりたいという気持ちもあり「ブロ雅農園」としてスタートしました。

 

 

廃棄するくらいなら食べてもらいたい

— SNSに投稿されたユニークな形のニンジンが話題になりましたね。

 

予想以上の反応にこちらもびっくりしました。うちは農薬を極力控えていることもあり、虫の影響も受けやすく形も不揃いになりがち。偶然面白い形になっていることも多いんです。(30万件のいいね、8万件のリツイートがあったという話題のニンジンはコチラ

規格外のようなちょっと不恰好な野菜に関しては農家さんによって考え方もさまざま。私みたいに「破棄してしまうより、買ってくれる人がいるなら多少形が悪くても売りたい」というスタンスの方もいれば、壺職人のように「きれいな野菜を作ってこそプロの農家、B品を出すなんで恥」という方もいます。どちらの考えもありだし、いろいろな売り方があっていいんじゃないかなと思っています。

 

— 規格外の野菜を売る難しさはありますか?

 

やはり形のいいものから売れていくというのは事実。袋ありのものと袋なしのものでは、袋に入っているものから売れるんですよね。でもマーケットに出店した時など栽培方法などを説明するとちょっと形が悪くても買ってもらえたり。野菜を作るだけでなく、その背景を積極的に発信していくということも大切だなと感じます。

— そもそも「規格」とは何ですか?

 

主に農協を通した流通の合理化のために定められたものです。各地域の農協に買い取られた野菜はいったん市場に運ばれ、全国の小売店へ出荷されます。長旅の途中で傷がついたりしないようダンボールにきちんと収まり、また店頭に並べやすいようにと設けられた、大きさや形、色などの基準が「規格」。大量の野菜を一定の品質を保ちながら全国へ届けるためには、必要なものだとは思います。

 

— 規格に合わせるだけで大変そうですが、それでも多くの農家さんが農協を通すのはなぜですか?

 

作った分買い取ってもらえ、売り先も決めてもらえるのは農協を通す利点です。直売所などはスペースが限られていますし、袋詰めや値段付けなども自分でやらなければならず、売れなかったら自己責任。それでも自分で作った野菜には自分で値段を付けたいという農家さんもいますし、多少安くても売るのは農協に任せて野菜を作ることに専念したいという農家さんもいます。

また「産地」も多いに関係しています。三浦半島はダイコンやキャベツの一大産地として知られていて、三浦産、横須賀産のキャベツやダイコンはブランド。農協が付ける市場価格も高いため、三浦半島ではダイコンやキャベツをメインに栽培する多量少品目の農家さんが多いです。

 それぞれのやり方で、どう作ってどう売るか

— ブロ雅農園では農協を通さず少量多品目で栽培しているのはなぜですか?

 

いちばんは父の影響ですね。農薬に弱い体質だったこともあり極力農薬に頼らない農業を行い、「横須賀長井有機農法研究会」の会長も務めています。有機農法が今よりずっとめずらしい時代に、話して伝えてということをしていたらファンがどんどんついて、父の野菜を支える120人くらいの団体までありました。そんな父の姿を見ていたので、こんな売り方もあるんだ、それぞれのやり方でいいんだと思っていました。

それにうちのように農薬を極力使わずに栽培している野菜を農協さんに出そうとしたら、規格外でほぼ破棄になると思います。病気になっていなくても予防の目的で農薬を使うのが一般的。そうじゃないと規格に合うきれいな野菜はできないんです。それくらい見た目重視の世界。

また三浦半島はダイコンやキャベツは作られ過ぎていて、すでに飽和状態なんです。それなら青首ダイコンだけでなく、カラフルなダイコンを作ってみたり違うことをやった方がいい。いろいろな種類を作っている方が、畑もにぎやかになって楽しいですしね。

 

— ブロ雅農園の野菜はどこで買えるのでしょうか?

 

ソレイユの丘とすかなごっそという直売所に置かせてもらっています。またいくつかの産直E Cサイトでも取り扱いがあります。大手スーパーさんとも取引があり、今年の夏は朝10時くらいに出荷してお昼くらいには生鮮売り場のブロ雅農園コーナーに並ぶという売り方をやってみました。少量多品目を活かしてカラフルなちょっと変わった野菜を中心に取り揃え、おかげさまで好評でした。

通常スーパーには規格に準じた野菜が並びますが、今回は直接の取引だったこともあり多少形が揃っていなくてもO Kと言ってもらえました。ただ途中から表示を変更することになり、それは残念でしたね。

 

— 農薬の表示についてはとても複雑だと聞きます。

 

最初は「栽培中農薬不使用」の表示を入れていたのですが、お客さまにいろいろ聞かれたようで、混乱を招くので表記は取ってくださいと。国にも認められている表記なのですが、規定が曖昧なこともあり今回のように入れられないことも多いです。

農薬使用回数が0であっても国のガイドラインで「無農薬」「減農薬」という言葉は使用できないことになっていますし、J A S認定を取得しない限り「オーガニック」や「有機農業」という言葉も使用できません。直売所によってもO KだったりN Gだったりマチマチ。伝えたいことを伝えられない、もどかしい想いをしている農家さんはとても多いです。

教員経験を活かした農業体験と農福連携

— 農業体験も積極的に受け入れていますよね?

 

実は今日も午前中に開催していました。コロナウイルス感染症の流行で屋外のアクティビティの需要が高まり、去年は1年間で4000人受け入れました。

教員時代から農業体験をしたいという声はよく聞いていたのですが、受け入れている農家さんはほぼいない状態。教えることは好きですし、都市部近郊という立地条件もいいので、やってみようかなと。黙々と野菜を作るより人と関わりながら「楽しい」「おいしい」と言ってもらえることに喜びを感じるタイプなので、向いているのだと思います。

仕掛けを考えるのも面白くて、例えばこれば「ニンジンガチャ」と呼んでいるのですが、ニンジン畑は色々なニンジンが植えてあり抜くまで何色が出るかはお楽しみ。小さい子なんてどんどん抜いちゃうので、すぐなくなっちゃうんですけど(笑)

 

— 農福連携はどんなきっかけではじめたのですか?

 

家族だけではちょっと手が回らないなと感じていて。そんな時タイミングよく農福連携をやってみませんか?と話があり、説明会に参加しました。すると広い会場に来たのは私だけ。きっと他の農家さんは、障がいのある方に農作業ができるというイメージがわかなかったのでしょう。

でも私はそうは思わなくて。というのも農業高校にも障がいを持っている生徒がいて、とにかく仕事がていねいで畑もきれい。その様子を見ていたので、不安もそれほどありませんでした。実際にお願いしてみると、やっぱりできるんですよね。最初は反対していた両親も驚いていました。

うちでの働きぶりを見て、やりたいという農家さんも増えてきました。障がいにも程度がありどの作業ならできるのかを見極めて教えることが大事。農家さんは教えることに慣れていないので、最初はなかなかうまくいかないんです。そこで農家さん向けのチラシを作ったり、講演に行ったり、いつの間にか農福連携の相談役みたいになっています。今は逆に人気になってしまって、なかなか来てもらえないくらいなんです。もともと労働力が足りていない地域なので、相性も良かったのだと思います。

農業体験に来た子どもたちに人気だという「農カード」

— 一見大変そうなことも雅智さん自身が楽しんでいるのが伝わってきます。

 

農業の技術に関しては卒業後すぐに農家を継いだ教え子たちの方が先輩ですが、教えることは他の農家さんに負けない自分の得意分野。農業体験や農福連携も、教員の経験があったからこそ楽しみながらできています。

農家の後継者たちがイヤイヤ農業高校へ通っている、その現状を変えたいと教員をしていましたが、今もその思いはありますね。若い人たちには「農業って楽しい」「農家ってかっこいい」と思ってもらいたいですし、そのためには我々がまず楽しまないと。

ちょっと不恰好な野菜も多いですが、農家としては「きれいだね」より「おいしいね」と言ってもらえる方がうれしい。これからもブロ雅農園らしい野菜作りを続けていきたいです。

農園内には美術部だったという雅智さん作のイラストが散りばめられ、とても開かれた雰囲気。農業と聞くと大変な面ばかりが注目されがちですが、「面白いから」「楽しいから」とさまざまなことにチャレンジしている雅智さんのお話しを聞いていると、近郊農業だからこその新しい可能性をたくさん感じました。

 

ブロ雅農園&鈴木浩之農園の詳しい説明はコチラ